一本目 前

対座している敵の殺気を感じ、機先を制してこめかみに抜き付け、さらに真っ向から切り下ろして勝つ。

動画

(居合道範士八段 小倉昇先生)

動作

  1. 正面に向かって正座する。静かに刀に両手をかけて鯉口を切り、腰を上げながら刃を上にしたまま、鞘引きとともに刀を抜き出し、両つま先を立て鞘を左へかえし始め、鞘放れ寸前に刃を水平にし、腰を伸ばして右足を踏み込むと同時に敵のこめかみめがけて激しく抜きつける。
    1. 鞘引き=左手は鯉口から離すことなく、小指を帯に押しつけて左こぶしをじゅうぶん後方に引くこと。
    2. 鞘放れ=切っ先が鞘の鯉口から放れること。
    3. 踏み込んだとき、左足のつま先は左膝の真後ろとなって両膝が直角となるようにじゅうぶん腰を入れ、上体をまっすぐにして丹田に力を入れる
    4. 抜きつけたとき、上体は約 45 度左へ開き、右こぶしは右斜め前方で止める。切っ先は右肩よりわずかに下げ、右こぶしよりやや内側で止める。
  2. 左膝頭を右かかとと近くにおくると同時に鯉口をへそ前に戻しながら切っ先を左耳に沿って後ろを突く気持ちで素早く刀を頭上に「振りかぶる」。振りかぶると同時に左手を柄にかけ、間をおくことなく右足を踏み込むと同時に真っ向から「切り下ろす」。
    1. 注1 振りかぶったとき、切っ先を水平より下げない。
    2.  切り下したとき、左こぶしはへそまえで止め、切っ先を水平よりわずかに下げる。体勢は、前項の注3と同様である。
  3. 左手を柄から離して左帯におくると同時に右手の「たなごころ」を上に返して刃先を左に向け、拳をこめかみに近づける。立ち上がりながら袈裟に振り下ろしての血振りをして居合腰となる。
    1. 注1 袈裟に振り下ろしての血振りは雨傘の雫を振りきるときと同じ要領で行う。振り下ろしたとき、右こぶしは左手と水平の高さで右斜め前方となり、切っ先は約 45 度前下がりとなって右こぶしよりやや内側で止める。このとき刃先は振り下ろした方向に向く。
      2 居合腰=残心の気構えで両膝をわすかにまげ、腰をおとした姿勢。
  4. 居合腰のまま後ろ足を前足にそろえ、続いて右足を引く。 左手を左帯から鯉口におくって納刀し、納め終わると同時に後ろ膝を床につく。
    1. 注1 納刀のとき、左手は鯉口を中指で握って親指と人さし指の握りをゆるめ、右手は鍔元近くの棟を左手の親指とまげた人さし指のくぼみにおくる。右肘を右斜め前方に伸ばして切っ先を左腰近くにおくるとともに、左手の鯉口も左帯近くにおくって切っ先を鯉口に入れる。刀を納めはじめるとともに左手で鞘をわずかに引き出してこれを迎え、静かに両手で納め終わって鍔に左手親指をかける。納め終わったとき、鍔はへそまえとし、刀はほぼ水平にする。
  5. 立ちあがると同時に後ろ足を前足にそろえる。右手を柄からはなして帯刀
    姿勢となり、左足より退いて元の位置にもどる。

    1. 帯刀姿勢=刀を帯にさした姿勢。

審判・審査の着眼点

  1. 抜き付けの時、充分に鞘引きをしているか。
  2. 左の耳に沿って、後を突く気持ちで振りかぶっているか。
  3. 振りかぶった切っ先は、水平より下がっていないか。
  4. 間をおくことなく斬り下ろしているか。
  5. 斬り下ろした切っ先は、わずかに下がっているか。
  6. 血振りの体勢は正しいか。
  7. 正しく、納刀しているか。

気をつけるポイント

  1. 体を起こしていくときに、前傾姿勢にならない。上に上がっていくイメージ。
  2. 切り下ろしは高く振りかぶり、大きく円を描くように。
  3. 血振りは体から45度の角度、横も縦も。左肘は大きく全面に張る。平行四辺形のイメージ。(平成23年9月24日追加)
  4. 「切るぞ、切るぞ…」とあまり肩肘に力を入れない。最初は静かに、右手親指と人差指だけで抜くくらいに脱力して抜いていく。(2020/08/23)